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『国際協力』に具体的な姿を与える英語教育

本日も以前のブログより…(2019年7月19日記事)

AO入試対策講座をご担当する先生から、ご寄稿いただいたものです。
我々教える立場にいる人間が読むべき文章かもしれません。近年、「globalコース」を新設する高校が増加傾向にあるようですが、ただ英会話の授業数を増やすだけでは、真の「国際人」を養成することは厳しいのではないかと考えさせられます。

 私は「将来国際連合で働きたいんです。どうしたらいいですか。」といった進路上の相談を、高校生(特に女子高校生)から毎年受ける。これに対して、私は毎回同じ質問をする。「どういう分野を専門にして、どのような仕事をしたいんですか。」
 この質問に対し生徒はいつも戸惑った顔をして、「はっきりとは決めていません。でも兎に角、国際協力に関わられるような国際機関で働きたいんです。」と答えるのである。そして、このような会話が毎年十人以上の生徒との間に繰り返されるのである。断っておくが相談に来る生徒は極めて真剣で、学業成績・人物共に素晴らしい場合が多い。教員になったころは時間をかけて親切にアドバイスをしていたが、毎年多くの生徒が同じような夢を持っているのはどうしてだろう、と考えるようになった。あるとき次の考えに思いあたった。「もしかしたら彼女らは、プロとしての仕事を通して世界に貢献しようとしているのではなく、単に国連という組織・名前に憧れているだけではないだろうか。」 この推測は、その後多くの生徒と話すうちにほぼ間違いないことがわかってきた。

 では、どうして彼女らは具体的な仕事を先に思い浮かべず、国際的な組織に属することを夢にするようになったのだろうか。私は、その原因の一つは教科書にあると思う。日本外交の柱に国際協力重視・国連中心主義があるため、教科書の国際協力や国連に関する記述は他国の教科書に比べかなり理想的に描かれている。このこと自体は別に非難すべきことではないが、そこでの記述がかなり抽象的・理念的になっており、具体性に欠けるのである。また、教える教師も国際協力の具体的な仕事について詳しく知っているわけではないので、授業はどうしても国連とか経済協力といった言葉の説明が中心になってしまう。その結果、生徒には実際にそこで働いている人の姿が見えにくくなり、観念的仕事・組織に対する理想をかえって強め、具体的な仕事というよりもむしろ国連などの「場」に所属したいと思うようになっていくのではないだろうか。

 私は、生徒が国際的な仕事について具体的なイメージが持てるように、また生徒の観念的な夢に具体的な形を与えるために、英語教育が貢献できるのではないかと考え、次のようなことを試みたことがある。そのとき扱ったテーマは「ララ援助」である。(ララ援助というのは先の大戦後、米国から日本に対してなされた民間援助の一つである) 私は当時書かれた英文資料を用いて、「どのようなアメリカ人が、どのような気持ちからこの援助を始めたのか。援助の過程でどのような反対(戦争直後、アメリカの対日感情はかなり悪かった)に出会い、人々はどのようにそれを克服していったのか。受入れ側の日本は援助を有効に活用するため、どのような体制を整えていったのか。援助はどのような効果を人々にもたらしたのか。何故、援助は日本でうまくいったのか。援助の成果は、ポケットマネーを出してくれたアメリカ市民にどのように伝えられたのか」等々を、生徒に読み取らせるようにしたのである。このような工夫をすることで、ララ援助は単なる「歴史上の言葉」から「国際協力の生きた姿を学べる一つの立派な教材」へと生まれ変わった。今まで「国際協力」や「国際機構」に関して抽象的なテキストしか読んだことのない生徒にとって、汗を流して働く人の姿を中心にしたこの授業方法の効果は絶大であった。

 今、日本は多種多彩な海外援助・国際協力を行っているが、具体的な仕事に従事している人の喜怒哀楽を高校生にありありと伝える教材は殆ど作られていない。残念ながら、今でも国際協力とか国連といった抽象的な言葉が先行し、現場で働く人々の貴重な具体的経験を次の世代に伝えるような授業の工夫は殆どされていないのである。
 ララ援助の授業を通して私の生徒が学んだ最大のことは、「援助は組織が組織に対してするのではなく、人が人に対してするものだ」ということであった。国際的な仕事についての具体的なイメージを持ってもらうためにも、また目立たなくても世界のために黙々と地道に働いている多くの人たちに関心を持ってもらうためにも、ララ援助を使った実践例のような「国際協力に関する面白い英語教材」の作成が我々英語教師に求められていると思う。

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